人文社会科学部 教授 清山 玲さん
プロフィール・経歴
30代半ばに第1子を出産してから、2人目の子どもが3歳になるまでの6~7年間は、授業や学内業務と子育てだけで手一杯でした。研究者にとって重要な論文を書く時間がほとんど取れず、とてもつらく、悲しい時期でもありました。いわゆる「マミートラック」の状態に入ってしまったのです。
その状況を変えるきっかけになったのは、学会の全国大会で共通論題報告者の公募があったときでした。そのテーマは自分の研究分野そのもので、「このテーマは自分のテーマであり、他の人が報告しているのを見るのはつらい」と思い、思い切って自分から手を挙げました。運よく報告の機会をいただき発表することができ、それをきっかけに他の学会や研究会からも声をかけていただくようになり、研究活動を再び軌道に乗せることができました。振り返ると、あの時に一歩踏み出したことが、マミートラックから抜け出す転機になったと思います。
子育てと仕事の両立も簡単ではありませんでした。夫の転勤もあり、遠距離生活の後、茨城での生活が始まりました。つくば市の官舎に住み、茨城大学のある水戸まで特急を使っても片道2時間かかる通勤でした。産休前には大学近くにマンスリーマンションを借り、復帰後は体力と時間の負担を減らすため、毎週ホテルに1泊し、時間と体力を温存しながら仕事を続けました。
産休後の待機児問題や急な介護問題など、ワーク・ライフ・バランスを保つことは容易ではありません。夫は家事も育児も何でもする人ですが、近くに親族もいなかったため、保育士さんやシッターさん、ファミリー・サポート、シルバー人材センターの方々に助けていただきました。子どもが病気のとき、二人とも仕事で帰りが遅くなる日には、食事や入浴、読み聞かせまでしてくださり、子どもたちや私たち家族の味方、応援団になってくれました。
子育ては大変なこともありましたが、とても楽しい時間でした。「せかいでいちばんだいすき」というラブレターは、今でも大切な宝物です。絵本や囲碁、合唱、お月見団子づくりなど、子どもと過ごす日々の時間は、仕事と子育て、それぞれに気持ちを切り替えさせてくれました。仕事を通して得られる人との縁や情報は、私にとって大きな支えでもありました。研究だけでなく、こうした経験からも、子育てや介護を抱える人が仕事を続けやすい社会をつくることの重要性を強く実感しています。この時期の経験が、仕事を辞めずに続けること、そして支え合いながら働くことの大切さを、私に教えてくれたように思います。
キャリアのもう一つの転機は、県の少子化審議会委員を務めていたときのことです。県庁の食堂で、当時の審議会会長だった川上美智子先生から「もっと地域の仕事をするように」と言われました。当時、子どもたちは受験期にあり、大学の仕事や研究、学会活動も抱えていました。これ以上仕事を増やすのは難しいと思い、地域の仕事の多くをお断りしていました。そこで私は、「どうやったらできますか?」と率直に尋ねました。
川上先生は、子どもを3人育てながら研究と社会活動を両立させてきたご自身の経験をお話ししてくださいました。そして、「日程調整は委員より議長の方が楽」「できるから、もっと仕事をお引き受けなさい」と背中を押してくださいました。その言葉に勇気づけられ、地域での仕事の幅を広げ、審議会の会長職もお引き受けするようになっていきました。男女共同参画を研究テーマにしているので、それを実践できたことは良かったと思っています。
その後、周囲に支えていただきながら学会の会長職を引き受けた際には、自分の経験も踏まえ、誰もが育児や介護など様々な事情を抱えていることを前提に、当たり前のことを丁寧に行う運営を心がけました。①役職を依頼する際には年間予定を共有し、業務経験が研究や学会活動、ご本人のキャリアにも役立つことを伝える、②公私の事情が発生する場合に備えて代替・支援体制をつくる、③負担の大きい仕事の分担調整には会長・事務局長が関与する、④週末の幹事会は対面とオンラインを併用し、遠方の方や子育て期の方が幹事に就任しやすくする、⑤問題が生じたときには会長・事務局長に直接相談し、執行部と一緒に解決する、というものです。執行部が困ったときには、前の執行部の方が応援してくださいました。
こうした経験を通して実感したのは、経験は積み重なるほど活きるということでした。学会が違っても運営の基本は共通であり、自治体が違っても課題や仕事の進め方には共通点があります。以前の仕事の経験が次の仕事に活かされ、次第に効率よく仕事ができるようになりました。
その後、高齢の親の遠距離介護の問題にも直面しましたが、「どうしたらできるか?」を考え、学内業務に加えて学会や地域の会長職なども、多くの方の助けを受けて乗り越えることができました。助けてくださった方々への感謝を込めて、次の世代の方々へつないでいきたいと思っています。
アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)や女性の自己評価の低さが、経済分野のジェンダー・ギャップ縮小が進まない要因の一つになっています。世の中の半分は女性です。その能力を生かせないのは、社会にとって大きな損失です。多様な価値観や行動スタイルは新たなイノベーションを生みます。厳しい人手不足の中で、誰もが自分らしく活躍できる職場をつくることが、これからの企業や組織の生き残りに必要な時代になっています。
女性も、仕事を通じて自己実現や社会への貢献ができますし、その力が社会から必要とされています。女性の管理職がほとんどいない職場では、支援し背中を押してくれる、組織を超えた社会の仕組みやネットワークがあるとよいと思います。男性と異なりロールモデルが少ないというハンディを、そうしたネットワークが補うことができるのではないかと思います。